夢のような恋だった


『……あのな、琉依。俺は別にお前を困らせようと思って告ったわけじゃないし』


聞いちゃいけないと思うけど、サイちゃんは地声が大きいから聞こえてしまう。
普段無邪気な弟の、真に迫った声は私までもドキドキさせた。


『告ったこと、後悔させるようなことすんなよ。俺たち友達だろ。見損なわせんな』

「……彩治」


格好いいな、サイちゃん。
振られたってそう言えるんだ。

サイちゃんはまっすぐで堂々としていて、そういうところはやっぱりお父さんに似ている。

私も智くんに対して、もっと上手に言えればよかった。
大好きだから、ちゃんと智くんの人生を大事にして欲しかったんだって。


電話越しの二人の会話は違う局面を迎えていた。


『とにかく壱瑳と替わるから』というサイちゃんの言葉に、琉依ちゃんがあからさまに動揺する。


「ちょ、彩治。だめ。今は……」

『……もしもし?』


電話の声がくぐもったものに変わった。これはきっと壱瑳くんだ。
琉依ちゃんは顔を一気に赤くして呟く。


「……壱瑳」

『琉依。なんで?』

「だ、だって。壱瑳が悪いんじゃん。私の事ばっか責めて」

『責めたわけじゃないし。ただ、言い方があるだろって言っただけ』

「でも」

『……とにかく迎えに行くからそこにいて』

「ちょ」


何か言い返す前に電話は切られてしまったらしい。
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