夢のような恋だった


 バイト先の本屋では、文庫フェアの準備中だ。
平台に乗せる話題の本の選定や展示のレイアウトなど、正社員さんが中心になって決める。


「葉山さんの絵本もいれようかぁ?」

「あはは、嬉しいですけど、そんなに売れてないし 」


児童書担当の人が私に声をかけてくる。
本名をペンネームにしているのは、こういう時に恥ずかしい。


「この間書いてた話の発売はいつなの?」

「三ヶ月後です」

「その時は平台に置いてあげるよ。地元作家フェアとか開こう」

「ありがとうございます」


三ヶ月後。
その頃までに、色々きちんとしておきたい。

少なくとも、草太くんのことだけは。

連絡するまで来ない、という宣言通り、本当に彼は部屋に来なくなった。

音信不通状態になって、もうそろそろ十日ほど経つ。

胸に小骨が引っかかってるみたいに、チクチクと痛いけれど、その理由が罪悪感のせいなのか寂しいからなのかよく分からない。

分からないから連絡も取っていない。

このまま自然消滅っていうのだけは後味が悪いから、はっきりさせなきゃとは思う。

というか、明らかに今の私は草太くんより智くんのことが気になっている。

気になる相手との未来がないから、草太くんとも別れる決心がつかないだけ。

こんなのズルいよねって思う。


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