ジャスミン
『…え?今すぐにですか⁉︎』

茉莉は驚きの余り、少し大きめの声をあげる。だが、早紀江はそれに動じる事もなく淡々と話を続ける。

『えぇ。もし、颯太郎とお付き合いしていくなら二人ともよいお年なんですから、将来を見据えて金子グループの後継者夫人に相応しいように作法や知識などを身に付けて頂かなければならないもの。仕事と両立出来る事ではないですし、そんなに甘い世界ではないのよ?』

『……。』

茉莉は何も言い返すことが出来ず、ただ俯いた。


それからの事はおぼろげにしか記憶にないが、早紀江から『送らせる。』という申し出を断って家をあとにした。帰り際に『賢い選択を期待してるわ。お仕事頑張ってくださいね?』と意味深に微笑む彼女の姿だけが頭に焼き付いていた。


家を出て、少し大きめの通りに出ると、タクシーを呼び止めシートに背中を預ける。タクシーはゆっくりと走り出した。

茉莉はただ呆然と流れる景色の中で窓にかすかに映る自分の姿を見つめたーー。
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