お見合いの達人


----……


「じゃあ、またこちらからご連絡します。

 今日はありがとうございました。」


「こちらこそ」


その日夕方まで、彼と過ごした。

一緒のご飯を食べて、

植物園に行って、

小さなカフェに行って、


駅まで送ってもらう。


まあ、普通のデートコースをたどった。

終始彼は紳士的で、表情も穏やかだった。

先程の話は冗談だったのかと思えば、

悪くない相手だけれど、

「あの……」

「はい?」

「初めに言ってた話は冗談ですか?」

「まさか、冗談じゃないですよ?」

「じゃ、じゃあ、私がもしそれでいいって言ったら、

 結婚するってことですか?」

「はい。あなたさえよければ。」

「……少し考えさせてください。」

「よいお返事を待ってます?」

私だって、お見合いで相手をみつけるって時点で、

恋愛を期待しているわけじゃない。

穏やかな彼と静かに暮らせるなら、

彼が私と結婚することで、

困難から脱することができるのなら、

いいんじゃないかと思えてくる。

でも、

彼の守りたいものって、牧場だけなの?

それとも、

その付き合っていた製薬会社の社長の娘?

もし結婚したら、

人生を掛けて守りたいものに私は加えてもらえるのかな?



< 26 / 198 >

この作品をシェア

pagetop