佐藤さんは甘くないっ!
「何か問題があるか?」
寝起きの悪さなど微塵も感じさせない涼しい顔で、佐藤さんはつまらなさそうに言い放った。
わたしの焦り具合とは見事に対照的である。
寧ろ一周回ってわたしがおかしいような気がしてくるほどの落ち着きだ。
「え!?わたしの話聞いてましたか!?」
「ああ。三神が俺たちのことを知っているんだろ」
「多分ですけど。……いや、ほぼ確実ですけど……」
お決まりの資料室。
会議まで少しだけ時間のあった佐藤さんを申し訳ないと思いながら引っ張り込んで、わたしは今朝の三神くんとの会話を説明した。
しかし、よくよく考えると佐藤さんは元々わたしたちのことを隠す気はないと言っていたので、この反応は当然かもしれない。
今更それに気付いてなんとも言えない気持ちになる。
……そりゃそうか、後ろめたいのはわたしだけだ。
「柴はばれたら困るのか」
「そ、それは……」
わたしの思考を見透かしたように、佐藤さんは静かな声で問う。
なんて返したら良いのか解らなくなった。
でも、今わたしが佐藤さんにしているのは、最低な行為だ。
お試しなんて普通は良いものじゃない。
ただ佐藤さんがそれでもいいと許してくれたから、わたしはこんな甘えた態度を取れているんだ。
「そんなことより」
「はい?」
「なんで一緒に通勤してんだよ」
「……電車が一緒なんです」
「車両をずらせば良い」
佐藤さんは仕事モードの冷酷な瞳でわたしをじっと見つめている。
どうしてそこまで、と言おうとしたけど、この前三神くんと必要以上に関わらないと自分で決めたところだった。
それに話すからぼろが出るわけだし、仕事以外で会う時間をなくせば済むことかもしれない。
「時間だ。会議に行ってくる」
「……はい…」
大きな背中を見送って、わたしもオフィスへと踵を返した。
なんだかもやもやしたものを抱えながら。