佐藤さんは甘くないっ!

月曜日。憂鬱度は、先週よりだいぶ低め。

満員電車に揺られながら充実していた週末を思い返していた。


「(……佐藤さん、良い匂いだったなぁ)」


ってよりにもよって匂いを思い出すって変態か!!

こんな風に自分を殴りたくなるのは何度目だろうか。

昨日の夜から、佐藤さんの匂いがなぜか蘇ってはわたしを赤く染めた。

シャンプーでも香水でもない、あの部屋を満たしていた良い匂い。

なんだろう。フェロモンだったりして。

自分で言っておいてなんだけど、佐藤さんからなら本当に出ているかもしれないと思った。


「柴先輩、おはようございます」

「ああ、三神くん。おはよう」


背の高い後輩は今日も爽やかフェイスを貼り付けている。

わたしの顔を見るなり少し驚いた表情をした彼をわたしも不思議そうに見返す。


「なに?なんか変?」

「いや……良い事あったんだなーって」


ぼふっ

顔に熱が集まり、わたしは思わず両手で頬を押えた。

え、えええ、そんな弛んでた!?締まりのない顔してた!?

会社に行く前にわかって良かった!!

しかし、何よりもその反応が三神くんの発言を肯定していたことに今更気付く。あほだ。

そんなわたしを見て何を思ったのか三神くんはそっと目を細めた。

そして突然腹黒フェイスに切り替えて、わたしの耳に唇を寄せた。


「……わかった、佐藤さんの家にお泊り?」


楽しそうに三日月に歪められた唇が、信じられない言葉を紡ぎ出す。

びっくりしすぎて返事もできずに固まっていると、三神くんは小さく笑った。

そこに毒気はないものの、わたしの心臓には今の彼が全て毒だ。


「今日の柴先輩、とっても可愛い顔してますよ」


あ、着きましたね。

当たり前のようにわたしの腕を引いて電車を降りていく彼の背中を茫然と見詰める。

どう見ても楽しそうにしている三神くんが悪魔にしか見えない。

あの言い方、鎌を掛けている感じじゃなかった……。

どうしよう佐藤さん……ばれているかもしれません!!!!
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