佐藤さんは甘くないっ!
……神戸。
正直、あまり驚きはしなかった。
なんとなく馨さんの表情からそんな気がしていたし……最上さんが簡単に引き下がるようにも思えなかった。
漏れ出した電話越しの声は、書類を忘れたようなことを話していた。
それが意図的なのかそうじゃないのか、嫌でも考えてしまう。
もちろんそれはわたしの憶測にしか過ぎないけど、今までの出来事を知っていれば誰もが同じことを思うはずだ。
それに馨さんとせっかく両想いになれたのに、そんな日から出張なんか行って欲しくない。
ましてやそれが、星川さんがいるとはいえ最上さんと一緒なんて。
何をされるか解ったもんじゃないし、不安が付き纏って仕方がない。
……でも、これは仕事だから。
わたし個人の感情でどうこう言う話ではない。
嘘でも本当でも良い。
馨さんがいないと困る状況なら、わたしはどうするべきなのか。
今までのわたしなら、どうしていたのか。
“佐藤さん!こっちの仕事は任せてください!”
答えは明白だった。
佐藤さんが、安心して出張に行けるように仕事を頑張るしかない。
過去の柴にできることも、今の柴にできることも、それしかないんだ。
“佐藤さんの部下の柴”でいられるように精一杯やり抜く。
「わかりました。こっちの仕事は任せてください!」
仕事の顔でそう言い切ると、強い力で引き寄せられて唇を塞がれた。
柔らかくて甘ったるい感触が心の鎧を剥がしてしまいそうだった。
宇佐野さんが隣にいることすら一瞬頭から吹っ飛んでしまう。
口をぱくぱく開けて何も言えずにいると、馨さんがしたり顔で笑みを浮かべて言った。
「電話するからな、2コール以内に出ろよ」
そんな無茶な!とは言えなかった。
馨さんがわたしを不安にさせないように言ってくれたことが嬉しくて、にやけないように我慢するので精いっぱいだった。