佐藤さんは甘くないっ!
水曜日、木曜日。
馨さんが出張でいないことなんて今までにも数えきれないほどあったのに、今回ばかりはどうしてか寂しい。
その分仕事を頑張ろうと決めて、再び宇佐野さんに振り分けられた雑務を三神くんとこなしていた。
……やっぱり宇佐野さんはドSだ。
普段は飄々としている三神くんですらお昼前の時点でげっそりしている。
いつか見たような光景にデジャヴを感じてしまうけど、今はとにかく気を紛らわせるしかない。
三神くんは予想通りではあるけど、何事もなかったように接してくれるので仕事中にやりづらさを感じることはなかった。
寧ろ、打倒宇佐野さんを掲げて共に戦っていた。
お昼休憩は死んだような顔で一緒にランチを食べ、すぐに戻ってPCに齧り付くという二日間だった。
……馨さんは、毎日電話をくれた。
朝ごはんはホテルのビュッフェで意外と美味しい、なんてコメント付きで写メが来たときは嬉しさのあまり思わず飛び跳ねてしまった。
馨さんがわたしのために少しでも日常を共有してくれようとしている。
その気持ちが堪らなく嬉しくて、ただの部下ではなく彼女なんだという実感を与えてくれる。
ただ、最上さんと星川さんの名前は一度も出なかった。
商談は馨さんが行ったことで盤石のモノとなり、心配することはないと言われた。
だからわたしもそれ以上は聞かなかった。
……聞けなかったのかもしれない。
馨さんに告白されてから初めて夜ご飯を食べたとき、車の中で馨さんは仕事の話を一切しなかった。
その気持ちがなんとなく解った気がする。
プライベートのときまで仕事の話をしたくない。
職場が同じだからどうしても共通の話題が仕事になってしまうけど、だからといってその話ばかりするのは違うように思えた。