佐藤さんは甘くないっ!

皆どうしてそんなに優しいんだろう。

色んな感情がぎゅうぎゅう詰めで苦しくなって、吐き出すように想いを口にした。


「馨さん、好き。……会いたい」


まさかわたしがそんなことを言うと思っていなかったのか、一瞬息を呑んだような気配がした。

言ってから妙に恥ずかしくなる。

電話は相手の表情が見えないからちょっと苦手だ。

好きとか会いたいとか言わなきゃ良かったかな、と後悔しかけていたところで咳払いが聞こえた。


「……あんまり可愛いこと言うな、今すぐ帰りたくなる。俺だって会いたい」


~~~っ!

馨さんが、とても、甘い。

解っていたことだけど、ちょっと忘れかけていた。

……甘くてとろけてしまいそうだ。

泣き腫らした瞼のことも忘れられる気がした。

きっと目の前にいたら、優しい眼差しでわたしを抱きしめてくれる。

そのぬくもりを想像すると心が満たされていくようで、寂しさが和らいでいく気がした。

苦手なはずの電話なのに、相手が馨さんだと驚くくらい楽しく感じる。

今日は宇佐野さんの元で働いたこと、とても大変だったこと、夜ご飯に食べたもの。

そんな他愛もない話なのに、馨さんは相槌を打ちながら聞いてくれた。

馨さんも神戸での仕事の話をしてくれた。

忘れていった書類が必要なのは今日じゃなかったそうで、商談には響かなくて済んだようだった。

ほっとするのと同時に、大事なことを思い出した。


「あの、そういえば……馨さんにお願いがあるんですけど…」


馨さんは眉間に皺を寄せて不満そうにしているに違いないけど、今回ばかりは電話越しで良かったかもしれないと思った。
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