佐藤さんは甘くないっ!

「そういう柴先輩こそ、人気ありそうです」

「あはは、お世辞ありがとう」

「違いますよ。僕、担当がわかったときラッキー!って思いましたもん」


ころころと表情が変わる三神くんは眺めているだけでも面白い。

社会人らしく既にお世辞スキルもしっかり身に着けていた。

お世辞でもそう言ってもらえるのは嬉しいので、心の中だけで喜んでおく。


わたしが佐藤さんの部下って決まった瞬間は最悪だったもんなぁ…。

お願いだから他のひとにお願いします!って本気で考えてたし。

そこではっとした。

…なんだか今日は気付けば佐藤さんのことを考えている気がする。

昨日の今日だから、なのか…。

本人がいないのにここまで気持ちを占拠されていたら…実際に会ったときは緊張で舌が回らなさそうだ。


「柴先輩は彼氏いるんですか?」


どきっ!

い、いや、彼氏は、いないし。

動揺したらおかしいにきまってる。

もっと普通に、冷静に、返事しなくちゃ。


「う、ううん、いないよ!」

「えーほんとですか?柴先輩可愛いのに、不思議ですね」


…ど、どうしてこうもさらっとお世辞を流し込むんだろう…!

あまりそういうのに慣れていないわたしはバカ正直に反応してしまう。

佐藤さんは絶対に仕事の面でもお世辞なんて言わないし。


というか佐藤さんとこんな風にゆっくり話したことなんて…今までないかも、しれない。

ランチに行っても無言のままだし、美味しいってたまに佐藤さんが零すくらいで。

確か入社直後のランチで頑張って話題を振ったら“無理して話すな”って言われたんだよね。

それから無理に話題を探して話し掛けることもなくなって、いつの間にか沈黙が嫌じゃなくなった。

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