佐藤さんは甘くないっ!
もういっそここから走って逃げだしたいような感情に襲われていたとき―――ずっとにこにこしていた三神くんがおもむろに口を開いた。
「どういう関係って……ただの、柴先輩の部下ですよ」
何故かただのという言葉が既に只事ではない感じを醸し出していたけれど、事実ただの上司と部下の関係しかない。
ほっと胸を撫で下ろすわたしをよそに佐藤さんはぴくりと眉を吊り上げてぶち切れ寸前だった。
…い、意味が解らない。
どうしてこの流れでさらに機嫌が悪くなってしまうんだろう。
一体どうなることかと思ったが、出勤してきた宇佐野さんが間に入ってきたことでなんとかその場を収束させることができた。
佐藤さんは不貞腐れた表情のままコーヒーを買うと言って出て行ってしまった。
わたしに買いに行かせないなんて珍しい…明日は槍が降るかもしれないな、なんて。
「柴ちゃん、朝から大変だったねぇ」
「宇佐野さん……とっても楽しそうですね」
「わかる?馨の顔が面白くてさー」
宇佐野さんは思い出し笑いで肩を震わせている。
どうしてだろう、急に宇佐野さんと三神くんから同じ匂いがしてきた。
もしかしたら二人ともよく似ているのかもしれない。
その流れで佐藤さんとも仲良くなってくれたら良いのにな…。
そんなことを考えながらデスクに戻ると、三度も落とすまいと握りしめていたケータイが震えた。
新着メールの欄には“佐藤馨”の表示。
やっぱりコーヒー買ってこいとかそういうこと?
佐藤さんらしいな、と勝手に想像してメールを開くと、端的に“今すぐ第二資料室に来い”とだけ書いてあった。
ということは今日は資料作りの日になるのかな。
三神くんも連れて行って良いんだろうか…と迷っているとわたしの思考を見透かしたように“一人で”と追ってメールが届いた。
新人用のタスクはまだ残っていたため三神くんにそれを進めるように告げると、わたしはオフィスを出て指定された場所へ足を進めた。