佐藤さんは甘くないっ!
パンプスをカツカツ鳴らしながらオフィスの廊下を歩く。
第二資料室なんて普段はあまり使わないけれど、急ぎの用事でもあるんだろうか。
資料作りなんていつもわたしひとりでやることなのに、佐藤さんも一緒に資料室まで赴くなんて珍しい。
…目を閉じてフラッシュバックするのは、さっきの佐藤さんと三神くんの謎のやり取り。
宇佐野さんが来てくれなかったらどうなっていたんだろう。
ていうかあのふたりは本当に、はじめまして?
初対面の相手とあんな風に睨み合うというか…挑発し合えるものなんだろうか…。
男の世界なんてわたしには理解できない…。
これから一緒に仕事をするなんて地獄を見るんじゃないかと、想像しただけでも溜息が零れた。
それに……
「(三神くんにはバレている気がして怖い…)」
あの日の事は誰にも知られていないはずだけど。
なんだか嫌な予感がするというか…見透かされている気がするというか…。
佐藤さんもあんな風に突っかかっていくし。
ど、どんな関係って、ひとつしかないでしょ!
なんであんなこと聞いたんだろ…。
かえって怪しまれるとは思わないのかなぁ…。
そんなことを心の中でぶつぶつと呟きながら、階段でひとつ下の階に降りてすぐ、目的の部屋に辿り着いた。
お待たせしました、と添えて控え目にコンコンとノックをすると「入れ」と短い返答。
怒っていない…気はするけど、なんだか声に覇気がないと言うか…いやでも苛立ってる…?
…あの気まぐれ屋さんの声音から機嫌を判断するのは難しすぎる。
早々に諦めて「失礼します」とノブを回して部屋に入った。