佐藤さんは甘くないっ!

…………ふう。

キーボードを叩いていた手を止めて、久しぶりに時計を見た。

2年以上もこういう生活をしているからなのか、……単純にわたしの腹時計が正確なのか。

時間はちょうど12時に差し掛かったところだった。

お昼休みになったため、オフィスからぞろぞろとひとがいなくなっていく。

今までの静寂とは打って変わって、がやがやとした喧騒が波紋を描くように広がる。


「………さて、と」


普段ならお昼休みになれば絶対佐藤さんに声を掛ける。

一緒にご飯を食べるし、今まで頼まれなくてもそれは殆ど毎日欠かさなかった。

……だけど、今日は。


「(しょ、正直気まずい…!!!)」


佐藤さんは放っておいたら終わるまで仕事を延々こなすひとである。

現に今も恐ろしい速度でタイピングを続けていた。

…このまま声を掛けなければ、きっと、お昼休みに気付かないでそのまま…。

いやいやそれじゃあ佐藤さんの空腹と栄養が……いやいやわたしはお母さんではないし…。

不毛な葛藤を続けていると、三神くんが自然な動きで佐藤さんの肩を叩いた。

心の中で、なにするんだこのやろう!と思わず悪魔のわたしが叫ぶ。

文字通りわなわな震えていると、笑顔を貼り付けた三神くんが佐藤さんを連れてわたしに近寄ってきた。

じ、地獄の死者だ……わたしを引き摺り込もうとしている…。


「柴先輩!3人でお昼ご飯食べに行きましょう!」


にこにこ三神くんとは対照的な、いらいら佐藤さん。

事実無根ではあったけど、三神くんとの妙な誤解は解消されたはずでは…?

どうしてイライラしているんだろう…わからない…佐藤さんがわからないよ…!

胃が痛むのは空腹の所為なのかストレスの所為なのか、それすらもよくわからなくなっていた。
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