Caught by …
 浮浪者のような身形の男が、怒鳴り散らしていた。そして、その標的となっている人物に、私の心臓は騒ぎ始める。

 ──雪のように真っ白な髪に、気怠げなグレーの瞳。今は煩わしそうに眉間に皺を寄せていて、それでもその端正な顔立ちは間違いなく、彼だ。


 『迷子の子猫』だ。


「聞こえ、てんだろうが‼金…金もってんなら、よ、よこせぇ…!」

 依然として地面に座り込んで黙ったままの彼に、男は苛立ったように声を荒げる。その手には空のガラス瓶があり、時折そのガラス瓶を彼の方に向けたり、自分の肩に置いたりしている。

 こ、こういう時はどうすればいいんだろう。誰かに助けを呼ぶべき?…だけど、今は私以外に誰もいない。かと言って私じゃどうにもできない気がするし、素通りするのも人としてどうかと思う。

 相変わらず彼は男を無視し続けていて、男はそんな彼に苛立ち、遠くから見ていてもわかるぐらい頭に血を上らせている状態で、酔っているせいもあるのか足元も覚束ない。

 そして、もはや何を言いたいのかもわからないほど怒鳴ったかと思えば、おもむろに瓶を持った手を持ち上げると、それを……。


「……っ危ない‼」


 私は咄嗟に叫んでいた。それは静かな夜によく響き、自分でも驚くほどだった。

 鼓動のドクドクという音が、痛いほど耳を打つ。

 知らず全身を強張らせていたが、叫んだ後の事を全く考えていなかった私は、また違った意味で固まってしまった。
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