Caught by …
離れていく彼


 私が高校生の時、よく姉の家に遊びに行っていた。都会の混雑した中に埋もれるようにあった、狭い部屋。築何年も建っていて、何度も修復された跡の残るつぎはぎみたいな、しかしとても居心地の良い部屋。

 まるで秘密基地みたいね。私の言葉に、姉は困ったように、そして楽しげに笑っていた。

 数えきれないデッサンと色んな素材の生地や型紙、山積みの雑誌、恐らくほとんどが目を通されていない新聞の束。

 姉は才能の塊だった。デザイナーという職業はまさに天職だっただろう。

 仕事も、プライベートも、全てが何不自由のないように見えていた。

 だから、私は少しずつ距離を置くようになった。私が何をしたって、頑張ったって、届かない姉から。本当は何をしようとしてもいなかったし、頑張ろうともしていなかったのに。

 勝手に僻んで、妬んで、あの人から逃げた。

『ねぇ、セシーリア』

 まさか、あんな事になるなんて。

『会いたいわ』

 純粋な憧れが、嫉妬に変わったのはいつだったのだろう?

『会えない?……そう、仕方ないわね』

 今思えば、姉から会いたいなんて言われたのは初めてだった。本当は会いたかった。いつでも、追いかけていたあの人に。

『ごめんね、セシーリア、愛してるわ』

 最後の言葉の震えた声に気づいていた。気づいていたのに、気づいていないフリをしようとしていた。それでも気になって姉の所に駆けつけた時には……―。
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