Caught by …


 自分で、自分という人間が時々分からなくなる。

 意識とは違う行動に出たり、記憶の中の音や目で見た光景に思考の全てが奪われたり。私は普通じゃない。特別という訳でもないけれど、普通じゃない。

 小学生や中学生の時まではこんな人間じゃなかったはず。あの頃が一番幸せだったかもしれない。綺麗な母親と優しい父親と……私の一番の憧れで大好きだった姉の家族四人が揃ったあたたかい家には笑顔で包まれていた。

 近所でもよく羨ましがられて、同級生達を家に呼ぶと翌日の教室では「すごい」と「いいな」と皆が口をそろえて言い、私がその日の主役だった。

 あの時は、家族の形が変わるなんて思いもしなかったし、私がこんな人間になるなんて考えられなかった。

 そして、姉が“死んでしまう”なんて。

 自殺だった。

 最初に見つけたのは私。

 冷たいお風呂場に流れる赤色の液体。

 あの人は実家を出て、一人暮らしをしていて。

 もう少し見つけるのが早ければ助かったかもしれない。

 私があの人に触れると、人間とは思えないほど冷たくて、私の憧れた、また周りからも尊敬されていた彼女の姿はどこにもいなかった。

 当たり前だ、それは死体でしかない。

 私を見捨てた、姉という死体。

 私は泣かなかった。

 泣き崩れる両親の隣で、私は泣かなかった。

 私が泣いたのは…家族でも知らなかったあの人の抱えていた傷を知った時だった。自分自身を傷つけてしまうよりも深くて辛い傷。彼女の死を嘲り、嗤う者達への憎しみと悔しさの涙だった。
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