Caught by …
 目を閉じても鮮明に思い出せるあの人の死に顔は、両親を酷く悲しませるほど晴々として、美しかった。

 鼓膜の奥で響く、流れ続けるシャワーの音。

 それはだんだんとはっきり聞こえるようになり、目を開けると、鏡に写る私がいた。

 上から滴り落ちるシャワーが煩わしくてそれを止めて、さっさと浴室から出た。トムから借りたスウェットパーカーとパンツを着ると大きくて、何重にも折り返さなければいけなかった。格好は悪いけど動きやすくはなった。

 ドライヤーを借りて髪を乾かして、ゆるくお団子にして纏める。

 脱衣場から出て、ソファーで本を読んでくつろぐトムに声をかける。彼はこちらを見て、少し笑った。

「やっぱり、サイズが合わなかったね。それ高校生の時に部活で着ていた物だから、持ってる中で小さいスウェットなんだけど」

 私は両手を広げさせてぶかぶかのスウェットを見下ろし、トムに向かって首を傾げてみせる。

「ん…でも、可愛い」

 頬をほんのり赤く染めながら言ったトムは、手もとの本に視線を落とす。その照れた様子にこっちまで恥ずかしくなる。

「ね、ねぇ、そっちに座っても良い?」

 恥ずかしさを隠すように服の袖を握り締めて言うと、彼はこちらを向いて二度頷いた。

「おいで、セシーリア」

 おいで…そんな一言に胸があったかくなって、安心する。小学生の頃なんかは、まだ甘えん坊でお父さんの隣に座って腕にすがりつくのが私の位置だった。泣きたい時も、笑いたい時も、なんでもない事を話したい時も、いつだってお父さんは「おいで」と私を呼び寄せてくれた。
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