Caught by …
 肩が触れるか触れないかの距離で、トムの隣に座る。彼の読んでいる本を覗きこむと、文学の授業の題材となっている古典の作品だ。私と彼が会ったのは、この文学の授業だった。

「僕、昔の背景が好きなんだ。すごく単純な理由なんだけどね。だから、今の授業は楽しくてしょうがない」

 屈託なく笑う彼に、私も笑って頷いた。

「中学、高校の時バスケ部だったんだけど、仲間の皆がゲームとかマンガとかの話しをして盛り上がってる中を僕は入れなくて。何度か馴染もうとしたけど結局諦めたよ。どうしても好きになれなかったから」

 トムのこういう所も好きだ。自分の好きなものを大切にしていて、だからといって人の意見を初めから否定せずに一度受け入れて、それでも駄目なら駄目、良いと思えば取り入れる。彼はすごく器用な人だ。

 …あの人は、思えばトムとは正反対だった。

 自分の好きなものをとことん追求する人で、自分の思い描く理想に他人の意見なんて聞き入れない。そんな彼女だからこそ、強く、誰よりも輝いて見えた。そして、それを快く思わない人間も居た。

 何でもそつなくこなす姉は、実は不器用だったのかもしれない。


「セシーリア?もう眠たくなったのかい」

 ソファーに背を預ける私の顔を覗くトムの柔らかい笑顔に、本当に眠気を誘われ、ゆっくりと何度か瞬きをして頷いた。

 今日は色んな事を思い出して、感情も不安定で、こんな日は静かに眠りたい。

「そうだね、今日はゆっくり休んで。おやすみ、セシーリア」
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