Caught by …


 冬の朝はなんだか嫌いだ。薄暗くて、寒くて、目を覚ますのを邪魔しようとしているみたい。

 車の窓の結露を手で拭いて空を見上げれば、予想通りの浮かない天気。思わず欠伸をしてしまって、隣で運転するトムがくすくす笑った。

「ごめんなさい…でも、そんなに笑わないで。こんな天気だもの」

「確かにね、今日の午前に授業がなくて良かったよ」

 だけど、午後の授業の予習はしなければならない。二度目の欠伸を噛みしめつつ、晴れない気持ちとのしかかる義務に辟易する。

 一度目を閉じて、トムに気づかれないよう小さくため息をついた。

 平日は基本、授業とアパートの往復。週末も、ベッテとアンネと遊びに行ったり、トムとデートしたり、それ以外は部屋から出ずに課題をするか、予習をするか。

 この日々の意味を問うなんてことはしないけど、嫌になるときもある。そして“魔が差す”なんてことも。

 きっと、あの夜は魔が差したんだわ。勉学に疲れてて、危険な彼のフェロモンに触れたから。

 昨日、トムも私と同じように不安に思ってることを知って、やっぱり私はトムが好きなんだと分かった。私が遊ばれていたのなら、それはそれで良い。私だって、本気じゃなかったことにすれば済む話しなんだから。

「着いたよ、セシーリア」

 いつの間にか止まっていた車。窓の外を見れば、いつものアパート。

「ありがとう、送ってくれて」

 トムの頬にキスをすると彼も返してくれた。

「それじゃあ、また教室で」

「ええ、また」
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