Caught by …
 車から降りて、門の前で見送る。相変わらず爽やかな笑顔で手を振ってくれて、私も手を振る。こういうカップル同士のやりとりを、あの彼はしないのだろうな。想像しても彼には似合わない。

 トムの車の後ろ姿を見えなくなるまで見送ってると、冷たい風が吹いて身震いした。…早く帰ろう。

 部屋までの少しの距離も、こう寒いとすごく遠く感じた。階段を上る足も駆け足になって、鞄から鍵を探りながら部屋の前までたどり着く。

 そして、かじかむ手でなんとか鍵を開けて、中に入ろうと氷のようなドアノブに触れた時だった。

「真面目な女子大生が朝帰りか?」

 扉を押さえつける大きな手、私の身体を痺れさせる低く響く声…突然に現れた不機嫌な彼。長身を屈ませて顔をのぞき込む彼と、見上げる私の唇は触れてしまいそうなほど近くて、どくどくと心臓が暴れ始める。

 どうして…?

 どうして彼が…レイがいるの?

「まさか、どうしてなんて聞かないよな。自分が呼んでおいて」

 呼んで?あなたは私の事なんて忘れて、電話に出なかったんじゃないの?

「そうか、自分の欲を満たしてくれる男なら誰でも良かったんだな。だから二週間経っても電話の一つしてこないで、やっとかかってきたと思ったら、この様だ!あんたは何人ボーイフレンドがいるんだ?俺もその一人にしようとしてるのか?答えろセシーリア!」

「や、やめてよ、怒鳴らないで!電話に出なかったのはあなたじゃない!あなたの方が私を弄んでたんでしょ!?」
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