Caught by …

　捲し立てられた反動で言い返す私の声は情けなく震えてしまっていて、下を向いて俯く。

　彼に責められただけで胸が苦しくて悲しい。どんなに彼のいない所で強がってみても、彼が側にいると意味がなくなってしまうなんて。

　彼以外の誰でも良かったなんて訳じゃない。ただ彼の事を信じていた私が信じられなくなって、不安で、怖くなったから…遊ばれてたんじゃないかと、あの夜だけの遊びだったんじゃないかと。

　だけど、彼は電話に出なかった。

　だから忘れようとしたのに、なんで彼が今私の目の前にいるの？

「たった一回、電話に出なかっただけだ。それに、こうしてここまで来た。弄んでるつもりはない」

　さっきより静かな落ち着いた声に泣いてしまいそうになるのを堪える。私ばっかり余裕をなくして、振り回されて、彼の前だと途端に感情を抑えられなくなる。いつもなら、こんな事ないのに。

「もう、帰って…お願いだから…あなたに会いたくなかったの。電話したのも、間違えてかけただけよ」

　私は彼と居るべきじゃない。こうして私に会いに来たのは彼の気紛れ。そんな気紛れを信じたら、後で傷つくのは私。こういう駆け引きみたいな事ができるような器用さはないし、私は安定した関係…つまりトムとの関係を求めている。

　なのに、彼の長い指が私の顎を持って上を向けさせ、グレーの瞳に見つめられると、切ないくらいに彼を求めている自分に気付いてしまう。

「本当にそんな事、思ってるのか」

　 彼の真っ直ぐな目は私の嘘を見抜いている。私は何も言えないで、彼から目を反らすこともできず、溢れる涙が流れ落ちないようにしていた。