Caught by …
「俺が嫌なら抵抗しろ」

 もう涙で視界がぼやけて彼の表情もよく分からなくなっていると、その言葉とともに彼の顔が近づいてくるのが朧気に見えて…そして、私たちの唇が触れ合った。

 驚いて瞬きをすると、我慢していた涙が一気に流れ、頬を伝う。

 抵抗するなんて、私にはできない。重なった熱い唇も、腰に添えられた手も、私が求めて仕方なかったのだから。

 私は彼の成すがままに身を委ねて目を閉じる。

 深まっていくキス。

 力が入らなくなる私の身体を支える手。

 もっと彼が欲しい。

 その思いとは裏腹に、彼の唇が私から離れていく。

「どうして、嫌がらない?どうして、そんなに泣く?どうして…ずっと電話をしてこなかった?」

「そんなに沢山聞かれても、答えられないわ」

 ほんとは全て言いたかった。嫌がらないのも、感情が溢れてしまうのも、彼だから。電話だって、何度もかけようとしたことも。

「答えろ…答えるまで帰らない」

 頬に伝った涙の跡を優しく拭い、私の言葉を待つ。

 帰ってと彼を突き放せたら、私は元の私に戻れるだろうか?彼に触れる前の私に。

“今の君は、君らしくないよ”

 トムの言葉が私を動揺させる。

 成績を気にして、周りの目を気にして、親が求める娘を取り繕って、そんな私が私らしいというボーイフレンド。

 だけど…今の私は……


「 あなたが好きだからよ 」

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