Caught by …
「レイ、好きなの…私…でも……」

 彼の胸に耳をあてて、自然と口が動く。まだ意識がはっきりしなくて、自分が何を言おうとしているのか自分でも分からない。

 ただ、頭の中にあるのはトムの笑顔と、姉の最後の顔、母の綺麗な顔が歪む顔。


 ──でも、あなたの隣にいる自信がない。


 多分、きっと、こう言いたかったんだと思う。けど、それはレイのジーンズのポケットから鳴った携帯の着信音で、言うタイミングを逃した。

「レイ?電話が鳴ってるわ」

「別にたいした用じゃない。それより、何を言いかけた?早く言え」

 言葉は命令口調なのに、頭を撫でる手の温かさに頬が緩む。

 私は首を横に振って、早く出るように促す。自信はなくても、今はこの彼の優しさを信じられる。それだけで充分だ。

「じゃあ、電話の後に聞く」

 レイはそう言って、携帯を取り出して電話に出た。…と、いきなり聞こえてきた女性の金切声に彼の表情が険しくなって、私を見下ろす。

 私も私で首を傾げて、漏れ聞こえてくる声に注意を向ける。その女性は何かに怒っているみたいで、もう一度レイを見上げればうんざりしてため息をついている。

「セシーリア…代わりに何か喋ってくれ」

 電話の向こうに聞こえないように声を潜めて言う彼に、私は必死で顔の前で手を左右に振って断ったけれど、否応なしに差し出された携帯。耳にあてがわれて、睨まれる。…強引過ぎて呆れるわ、まったく。

「も、もしもし?」
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