Caught by …
素顔の彼


 日が暮れて窓に目をやると、闇の中をちらちらと不規則な雪が舞っていた。そして時計を見ると、22時になろうとしていた。

 シャワーも夕食も終えて、教科書とノートを広げた机に向かっていた私は深いため息とともに、椅子へ背中をもたせかけた。

 携帯を睨んでみても、ソイツはまったく無言を貫いて私と我慢比べをしようとしている。

 何がハニー、よ。その気にさせて傷つく私を面白がろうっていうの?

 私は軽く息を吐いて、背筋を伸ばした。こんな恋煩いみたいなのはごめんだ。それよりも勉強に頭を集中させるべきね。

 よし、と小さく意気込み、ペンを持ち直した時だ。

 不意をついた着信音に異常に肩を驚かせた私の目には、ディスプレイに表示された彼の名前。

 バカみたいに素早く携帯を手にとって、鳴り終わってしまわない内に電話に出ようとした、けど何故か緊張してることに気づく。

 落ち着きなさい、ただの電話よ。

 今朝の笑顔を思い浮かべ、一度深呼吸をする。それから、震える指で画面をスライドさせた。

「はい」

 たった二文字だけでも酷く喉が渇いて、これ以上の言葉は出てきそうになかった。

『一時間後、そっちに着く』

 …間もなく、通話終了の機会音が早く画面を閉じろとばかりに鳴り響いた。

「返事も聞かずに…なんて冷めた態度なのかしら」

 もう怒りとか悲しいとかじゃなく、呆気にとられて言葉をなくした。確かに、感じの良い台詞を聞かせてくれるとは思ってはいなかった。しかし、こうもドライだと本当にここに来るのかと、疑問に思うのは致し方ない。
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