Caught by …
 でも、とにかく一時間は集中して勉強ができるということらしいので、私は教科書の文字に目を落として、ほとんど白紙だったノートにペンを走らせた。

 勉強は嫌いでも、勉強をするのが当たり前、できて当たり前だと思い込んでいた。今でもその思いは変わらない。それが普通の女の子たちの常識とは違うと気づいても。

“私、有名なデザイナーになるの”

 まだ子供だった頃、テストの点が悪くて母親に叱られ、その時に言われた将来云々のことを姉に伝えると返ってきた答え。

“セシーリアみたいに頭は良くないけど、私には才能があるらしいの。だから、絶対デザイナーになる”

“セシーリアは?何になりたいの?”

“私は…お医者さんか、あとはえっと、法律家?か、良いお家のお嫁さんかな”

“違うわ!私はあなたの夢を聞いてるの、お母さんの夢なんかじゃない‼”

 あの時の姉を今思えば、母親に対する反抗心が不思議なくらい強かった気がする。

 実際、大人になってデザイナーになると言い出した姉を事も無げに家から追い出してしまった母親が、こっそりと姉を思って涙を流していた姿は、二人の確執の深さを示していた。

 だからこそ、姉は叱られて落ち込んでいた私を執拗に庇って慰めてくれたんだろう。

“そうだ!あなたが自分の夢を見つけて、それから恋をして素敵な旦那さまと結ばれたら、私がデザインしたウェディングドレスで結婚式を挙げるの‼良い考えじゃない?”

  きっと、もしも私が一人っ子だったら、今よりも母親に順丈ないい子になっていたかもしれない。そう考えて、複雑な気持ちになった。
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