Caught by …
 どれほど机に向かっていたのか、体がカチコチに固まったように感じて、顔を上げて背伸びをする。ついでに時計を見る。

 ──23時30分。

「ん?23時…30分…?」

 部屋を見渡してみても、私以外は居ない。まぁ、それは当たり前な訳だけど…。

「レイったら、ここには来ないつもり?」

 窓の外で舞う雪はさっきより強まっていた。私はため息を吐いて、椅子から立ち上がった。ずっと座りっぱなしで腰やらお尻が痛い。

 コーヒーでも飲もうとキッチンへ行き、お湯を沸かす。インスタントコーヒーの瓶をあけて広がる香りに頬を緩ませ、マグカップに入れる。

 お湯を入れて出来上がったそれを持って、窓の前へ。この雪の降り方は積もるのだろうなと考えて、下に目をやった。

 人通りの少ない道にぽつぽつと灯る街灯。

 彼の姿を探してみるけれど、見当たらない。両手でマグカップを包むように持つと、その熱さが手にじんわり伝わる。

 ふと、私の頭の中に寒空の下で地面に座り込む彼の姿が浮かんだ。真っ白な髪に雪が積もり、誰かを待っているようにそこから動かず両手に息を吹き掛けて…。

「さすがに、こんな寒い日にいるわけないわ。だって凍え死んでしまうもの。いるわけないに、決まってる」

 でも…彼がもし本当にいたら?

 そう思い始めて、私は外に出る用意をしていた。どうして、そんなことを思ったのか分からないけど、彼という人間は私にはまだまだ理解不能な存在。いないならそれに越したことはないし、いたのなら早く行かなきゃならない。

 マフラーをぐるぐるに巻き、傘を持って外に出た私を急かすように雪が風に吹かれて舞った。
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