黄昏に香る音色 2
「いくぞ」

和也は、直樹に予備のIDカードを渡すと、中に促した。

「ああ…」

直樹が、出入り口に入った途端、

凄まじい歓声が上がった。

その歓声さえ、

切り裂くような…

サックスのブロウが轟いた。

「直樹!この音を聴くな。音を意識するな」

直樹は、体を震わした。

何か異質なものが…体に入ってくるような感覚。

「うわさではきいていたが…」

和也は、額の汗を拭った。

「これは…」

二人は、通路を歩きながら、

「音のドラッグ…と言われている」

「音のドラッグ…」

「欲望が強い者、心が病んでる者の…心を蝕むようだ」

「この音が…」

「普通の精神のやつは、すぐには、効かないらしい」

和也は、直樹に微笑み、

「お前は、大丈夫だよ」

「和也」

和也は直樹を見、

「俺も大丈夫だ…お前のおかげで」

「和也…」

「急ぐぞ」

二人は、ステージに向かって走った。


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