黄昏に香る音色 2
「香里奈!」

ステージの袖に戻ってきた香里奈を、

サミーは、思い切り抱きしめる。

「え?」

見知らぬ黒人のお爺さんに抱きしめられ、

香里奈は戸惑う。

「俺だ!覚えてないのか!小さい頃に、何度も会っただろ」

もちろん英語だ。

香里奈に、わかるはずがない。

「香里奈」

通路から、志乃が姿を見せた。

「志乃ちゃん!」

香里奈は、サミーの腕の中からすり抜け、

志乃に駆け寄った。

「Oh、My God」

サミーは、頭を抱える。

その様子を見て、志乃が笑う。

「志乃ちゃん…ありがとう」

志乃は、ドレス姿の香里奈を眺め、

「よかった。最高だった」

志乃は微笑んだ。




アンコール!

アンコール!

アンコール、アンコール、アンコール!


香里奈が、去ったステージに、アンコールの声がこだましていた。

「香里奈…」

志乃は、香里奈に微笑み、

「いかないと」

しかし、香里奈は、首を横に振った。

「もう…喉が限界…」

「でも、いかなきゃならないの。それが、歌手」

志乃は、ステージの方を見つめた。

少し寂しげな瞳。

そんな志乃を見た香里奈は、

志乃の手をつかんだ。
< 293 / 539 >

この作品をシェア

pagetop