黄昏に香る音色 2
直樹の目に、優の姿が…

自分に変わる。

あの日、

夜に、香里奈の家に訪れた自分。

いきなり、香里奈に、

告白した自分。

「ち、ちがう…」

直樹は後退った。

(今のような気持ちを…香里奈も、味わったというのか…俺は…)

「あたしは、悩まない。苦しまないし…苦しませない…あなたを」

優はゆっくりと、直樹に近づく。

「飯田くん?」

優の後ろ…食堂の方から、祥子が現れた。

「こんなところで、何してるの?」

祥子の声を聞いて、優は少し顔をしかめると、また笑顔にもどり、

そのまま、直樹を見つめながら、直樹の横をすり抜けていく。

直樹は、金縛りにあったかのように、動けない。

「知り合い?」

祥子の言葉に、やっと動けるようになった直樹は、

「いや…知らない…」

「汗…びっしょりだよ」

直樹は額を拭うと、手に汗がついた。

その量に、驚きながらも…

「ち、ちょっと…暑かったから…」

愛想笑いを浮かべる直樹。

祥子は訝しげに、直樹を見ていた。




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