黄昏に香る音色 2
壊された音
ニューヨークの外れにある

サミーのビルから、1人…

速水啓介は、楽器ケースを手に外に出た。

早朝…いきなりのメールがあった。

ティアからだ。

明日香と2人で、指定のライブハウスに来いと。

メールを見た啓介は、スタジオのみんなが寝静まっている間に、

出かける用意をした。

そばで眠る明日香に、気づかれないように。


啓介は、胸騒ぎがしていた。

もう戻れないような。

行ってはいけないと、

何かが叫んでいたが、

ミュージシャンとしてのプライドと、自信が、

逃げることを許さなかった。

もしもの為に…

明日香は、連れて行けなかった。

彼女が希望になる。


啓介は、動き始めたばかりの地下鉄に乗り込んだ。


数駅をこえて、

目的地に着いた。

駅の近くに、そのライブハウスはあった。

指定された店名の下にある階段を、啓介は迷わずに降り…分厚い扉を開いた。

営業が、終わったばかりかなのか…

まだ熱気が漂っていた。

いや、違う。

小さく、狭いライブハウスのステージで、

1人、佇む…

まだあどけない女から…漂っているのだ。


「ジュリアなのか…やっぱり…」

女は、啓介が知っているジュリアと…

少し雰囲気が違っていた。

< 433 / 539 >

この作品をシェア

pagetop