黄昏に香る音色 2
「ありがとうございました」

和也は頭を下げると、病院を後にした。

退院日に来ると、律子は主張したが、

店を開けてくれと、

和也は断った。

大した荷物もなく、病院から、駅まで歩く途中、

和也の耳に、ジュリアの歌が流れてきた。

和也は足を止め、音楽に耳を傾けた。

ヒットしてるとか、いい曲だから、

心に残るのではなく、

その曲を聴いた時、

誰かといた…

誰かを思い出すから、

思い出に残るのだろう。

和也の目の前に、

学生服姿の里緒菜がいた。

里緒菜は微笑み、

「退院。おめでとう」

「ありがとう」

和也は、はにかみながら、里緒菜を見つめた。

少し意外だったが、

来てくれる予感はしていた。

和也は歩き出した。

里緒菜のそばまで。


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