天空のエトランゼ{Spear Of Thunder}
「人は…変わらないのかもしれませんね…」

いつものように、訪れるお客を暖かく…笑顔を出迎えるマスターは、

いつもの如く…コーヒーをいれていた。

「例え…姿形…人間でなくなろうとも」


独特の香りを発するコーヒーを、ゆっくりとカップに注ぐと、

マスターはカウンターに座る仁志の前に置いた。

「ありがとうございます」

仁志は頭を下げると、コーヒーを飲んだ。

その様子を、優しく眺めながら、マスターは言葉を続けた。

「他人と違うこと…自分らしくといいながら…違ってしまうと、差別の対象となる。そして、差別された者は、差別した者を憎み、恨む…負の連鎖ともいうべきもの…」

マスターは、自分のカップにコーヒーを注いだ。香りを確かめると、カップに口をつけた。

「我々は、進化した。そして、人より優れていると…思っていたが、そうではないのかもしれない…」



「ぼ、僕は……」

仁志はカップをカウンターに置くと、おもむろに口を開いた。

「いじめられたり…生まれや出身で、差別されたこともありました…。それは、つい最近まで、続きましたが……」

マスターはカップを置き、仁志の言葉を待つ。

仁志は一生懸命考えながら、言葉を選ぶ。

「なくなるとか…なくそうとかじゃなくて……誰かが、その連鎖をせき止めなければなりません」


マスターは、目を細めた。

「差別やいじめを受けても…我慢…じゃなくて、堪えることのできる…心の強さ。自分の受けた痛みを、他人に返すのではなくて…自分の中で…消化できる強さ」


「だが……それでは、差別はなくならないのではないか?差別する者は、差別し続けるだろう…」

「だけど!」

仁志は、カップの中のコーヒーを見つめ、

「僕は…そんな人間でありたい!僕が…すべてを受けとめて…すべての傷つける言葉をせき止めたい」




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