天空のエトランゼ{Spear Of Thunder}
ジェーンは屈むと、跪くカルマの頬に手を伸ばした。

「お前は、まだ若い」

ジェーンは微笑み、

「まだ…生まれたままの体だ。願わくは、この国から出て…外の世界で生きてほしい」



「そ、外の世界とは?」

カルマの体が、震えだした。

「普通の人間の社会だ」



ジェーンの言葉に、カルマは触れる手をすり抜け、立ち上がった。

「私は、アステカの守護神!この国を護る為に、存在します!」

ジェーンも立ち上がり、

「国を護るということは、何も戦うだけではない」

カルマの目を見つめた。

しかし、カルマは顔を背けると、

「私は、守護神です」

あまりにも、強固な意志に、ジェーンはカルマを哀れに思った。

つい最近までのジェーンなら、それも潔いと感心しただろう。

しかし、姿が変わり…あの男の知る自分ではなくなったことを知った時、

ジェーンは自らの肉体を捨て、精神だけ残る自分に哀しみを覚えた。


これでは、地縛霊と変わらないのではないか。

アステカ王国に縛られた悪霊。

ジェーンは前の肉体が、焼却されたと知った時、言いようもない苦しさを味わっていた。

本当の自分は、すべて火葬されたのではないかと。



だとすれば、今の自分はなんだ。


それを、自分で見つけた時、ジェーンという存在は消えるであろう。


私は…劣化した…ただの人形。

その人形は、大量生産された…粗悪品。


だからといって、これを捨てることはできない。


まだ…ボロボロになっていないのだから。



「ジェーン様…」

カルマはやっと、ジェーンの苦しみを理解できた。

しかし、守護神として、アステカ王国の中でも、ずば抜けた肉体を持ち、

若さを兼ね備えたカルマには、すべてわかるはずもない。

そして、まだ…真の意味で、人を愛したことのない戦士は、痛みの本質を理解はできない。

まだ愛とは気付いていないが…ソリッドの方が、心の奥で痛みは知っているだろう。

しかし、向き合っていない愛など、

所詮…逃げ道が多い…ただのじゃれごとだ。


< 1,274 / 1,566 >

この作品をシェア

pagetop