天空のエトランゼ{Spear Of Thunder}
「うん?」

九鬼は廊下を曲がるとすぐに、鼻腔を微かに刺激する臭いに、足を止めた。

「これは…」

九鬼は表情を引き締めると、もと来た道を戻った。

窓に沿ってのびる廊下に、飛び出すと、九鬼は美亜が去った方に、振り返った。

もう美亜はいなかった。

それに、その方向からはしない。

九鬼は、逆の方向を走った。

右側にある窓から、月の明かりが、九鬼の半身を照らしていた。


ここの廊下は長く…隣の校舎にまで続いていた。

少し段差がある校舎間の廊下を、ジャンプして駆け抜け、

隣の校舎に飛び込んだ九鬼の前に、血溜まりの中で倒れている響子がいた。

そして、その前に立つリオの背中を確認した。

「貴様!」

九鬼は着地と同時に、もう一度ジャンプすると、空中で身をよじった。


「勘違いするな」

振り向くと同時に、乙女ダイヤモンドに変身したリオは、片腕で、九鬼の回し蹴りを受け止めた。

そして、腕の力だけで、九鬼を跳ね返した。

「クッ」

空中で回転して、床に着地すると同時に、乙女ケースを突きだした九鬼を、

リオはもう見てはいなかった。

ただ…もう生き絶えている響子に、視線を落とし、

「この人は…元防衛軍の幹部にして、ブルーの乙女ケースを持っていた」

静かに、話し出した。

九鬼は、いつもと違うリオの口調と…乙女ケースの件で、変身を止めた。

リオは、そんな九鬼を見ようともせず、

「本当ならば…この人から、乙女ケースを奪いたかったが…彼女は特殊能力を持っていた。人の心を読む!」

ただ拳を握り締め、

「その為…容易に近づくこともできなかった。それなのに!」

悲痛な声を漏らした。

響子の致命傷となった傷を見て、

「それなのに!彼女を殺した相手は、背中から一撃で決めている」

愕然としていた。


九鬼は、響子のことを詳しくは知らなかったが、

何度か、遠くから見た物腰に隙はなかった。

その響子が、一撃で殺られた事実に、

少し悪寒が走った。
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