天空のエトランゼ{Spear Of Thunder}
「つまり…」

リオは振り向き、九鬼の目を一瞬だけ見つめると、

「月影の力を狙う者がいる」

歯を噛み締めた。


それから、ゆっくりと歩き出した。


九鬼は、そんなリオを目だけで見送った。

九鬼の横を通り過ぎると、リオは一度足を止めた。


「それも、恐るべき力を持った…」

薄暗くなった廊下の先を、睨み付けると、

リオはまた歩きだした。

九鬼は振り返ると、その背中が廊下の闇に消えてしまうまで、見送った。






「!?」

九鬼は人の気配に気付き、前を向いた。

いつのまにか、黒のマスクを被った男達が、響子の遺体をタンカーに乗せていた。


九鬼は、男達の動きよりも、遺体を挟んで向こうに立つ…白衣の男に目を見開いた。

ボサボサの頭に、その鋭い眼光は九鬼を見据えていたが、

口許は笑っていた。


「兜博士…」

九鬼は絶句した。

兜は軽く頭を下げると、九鬼に背中を向け、歩き出した。


「待て!」

九鬼ははっとすると、慌てて走りだそうとした。

「兜博士!」

響子を載せたタンカーを避け、血溜まりを飛び越えようとした瞬間、

廊下の窓ガラスをぶち割り、タンカーを越えて、九鬼の真横から襲いかかる者がいた。

「九鬼真弓!」

九鬼はとっさに、ジャンプを止め、身を屈めた。


九鬼の首があった空間を、鋭い二本の刃物が、交差した。

「チッ」

襲いかかってきた者は、舌打ちした。

「装着!」

九鬼は身を屈めると同時に変身、さらに背中を後ろに反らした。

乙女ブラックになった九鬼の蹴りが、突き上げるように、襲いかかってきた者の腹を蹴った。

「クッ!」

襲いかかってきた者は、顔をしかめ、普段は使っていない教室の窓ガラスに激突し、

そのまま窓を突き破った。

九鬼はブリッジの体勢で手を床につけると、そのまま反転し、立ち上がった。

「!」

血溜まりの向こうを見たが、もう兜はいなかった。
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