天空のエトランゼ{Spear Of Thunder}
「理香子…」

ダイヤモンドの乙女ケースを握り締めながら、リオは校舎の出入口から、飛び出してきた。

そして、変身を解き、ただ立ち尽くすだけの理香子の背中を見て、足を止めた。

理香子は、ゆっくりと顔を上げた。

上空に輝く月を見る為に。


そのなめらかな動きに、リオははっとした。


「もしかして…記憶が、戻ったの?」

リオの声に、理香子はゆっくりと顔を後ろに向けた。

真っ赤になった…悲しみで溢れた瞳が、リオを射ぬいた。

「!?」

リオは反射的に後退ると、乙女ケースを突きだした。

なぜ、そうしたのか…わからない。

しかし、恐怖が全身を包んだのは、事実だった。

その行動を見て、理香子は目を細め、

「乙女ガーディアンが、我に牙を向けるか?」

じっとリオではなく、乙女ケースを見つめた。

すると、乙女ケースが震えだした。

「え?」

乙女ケースの振動は、リオの腕を上下に波たたせた。

余りの激しさに、リオの脳は危険と判断し、

本人の意思とは無関係に、手を離させた。


乙女ケースはそのまま…理香子に向かって、飛んでいった。


「装着」

決して、手を差し出すことがない理香子だが、

乙女ケースは勝手に開き、眼鏡を放出した。




「そ、そんな…」

愕然とするリオの前に、乙女ダイヤモンドとなった理香子が立っていた。


理香子は体をリオに向けると、ゆっくりと歩き出した。

妙な威圧感を発しながら、近付いてくる乙女ダイヤモンドに、リオは足がすくんで動けなくなった。


「り、理香子…」


乙女ダイヤモンドは、拳を振り上げた。

月光に照らされた拳が淡く 、輝いた。


「理香子!?」

突き上げていた腕が、消えた。

違う。

あまりの速さに、目でとらえられなかったのだ。

リオの見開いた目の前に、理香子の拳があった。


後…数センチで、拳は、


リオの頭蓋骨を砕いているところだった。
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