天空のエトランゼ{Spear Of Thunder}
「月が…泣いている?」

かつてのアメリカ合衆国は、滅んだが…その国を象徴する自然は残っていた。


グランドキャニオンの岩一色の壮大な風景の中、腕を組み…まったく周りに負けない程の迫力を醸し出す1人の魔神。


「また…わからんことを」

岩場の狭間に浮かび、谷間の底から吹き上がる風を感じながら、頭をかいているのは、ギラだった。

訝しげに…月を眺めているサラに肩をすくめると、ギラは欠伸をした。

「こんな…生命の息吹きを余り感じないところは、好かんな」

多少…生物はいるようだが、草木のむせかえる匂いがするジャングルの方が性に合っていた。



(知ってた?人の歌には、種類があるのよ)

今のように、魔王城のテラスで月を眺めていたサラに、リンネが後ろから話しかけてきた。

微笑をたたえながら、リンネは説明した。

(こういう月の下で、愛する者に思いを告げる為、捧げる歌をセレナーデというのよ)

サラは、ちらりと後ろにいるリンネを見た。

月を見上げるリンネの表情に、サラは視線を外した。




「気にくわない…女だ」

サラは下唇を噛み締めると、月に向かって羽を広げた。
そして、飛び上がっていくサラを、ギラは横目でちらりと目をやった。

「?」

月の中に隠れる程、飛び上がったサラとは逆に、ギラは谷間に落ちていった。


「やはり、わからん…」

落下しながら、首を傾げたギラは、地面が迫ってきても焦らずに…欠伸をした。

そして、巨大な羽を広げると、一瞬で月の下まで飛翔した。

「それが…女というやつか」

自分の横に来たギラに、サラは鼻を鳴らすと、

「わかったような口をきくな」

ギロリと睨み、そんなどこかへ飛び去っていた。


ギラは空中で、さらに首を捻り、

「あやつは…女ではないのか?」

サラの反応が理解できなかった。


「う〜ん」

首を捻りながら、ギラはサラの後を追った。
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