天空のエトランゼ{Spear Of Thunder}
「頼む!」

九鬼の全身を軽く包む程の…巨大な光の束は、思惑通り少し軌道を変えることはできたが、防ぐことはできなかった。

エネルギー波は、建物の十階以上を消滅させたが、

民家の上を飛んでいき、結界に激突した。

結界を貫通すると、そのまま空に消えていった。

結界にできた穴は、すぐに塞がった。



エネルギー波が直撃した反射板も、すぐに消滅した。

学生服に戻ってしまった九鬼は、直撃しなかったとはいえ、空気を切り裂く光の束の余波を受け、空中で吹っ飛んだ。


咄嗟に受け身をとったとはいえ、地面で全身を強打した為、動けなくなった。

少し離れたところに、ムーンエナジーを使いきったブラックの乙女ケースが落ちて、転がった。

「少しは…守れたか」

全身が痛みで麻痺していた。

乙女ケースを掴みたかったが、手が動かない。

「まだ…終わっていない」

普通の人間なら、即病院送りだろう。

「こ、これくらい」

九鬼はまだ止めるわけには、いかなかった。

乙女ケースに手を伸ばそうとする九鬼の目に、走り寄ってくる人影が映った。

顔を上げることはできないから、近寄ってきた人物がしゃがんで、乙女ケースを掴むまで、誰かわからなかった。

「阿藤さん!?」

九鬼は、驚いた。

そんなところに来れる女の子と思ってなかったからだ。

乙女ケースを拾い上げた美亜に、九鬼は叫んだ。

「阿藤さん!危ないわ!それをこっちに投げたら、すぐに逃げて!」

美亜はコクッと頷いたが、黒の乙女ケースを九鬼に投げることなく、背を向けると校舎の方に走り出した。

「阿藤さん?」

九鬼は驚いた。

「阿藤さん!そのケースを!」

しかし、美亜は止まることはなかった。

九鬼は目で、遠ざかっていく美亜を見送ることしかできなかった。

「阿藤さん…」

九鬼の声は、ガンスロンの稼働音にかき消された。

攻撃を邪魔されたガンスロンは、機械なのに咆哮した。

怒りを吐き出すように、獣のように鳴いた。

機械の体で。
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