天空のエトランゼ{Spear Of Thunder}
少年は、そのまま黒竜の鼻の上に乗った。

黒竜はか細い声を発すると、町から離れ、砂漠の入口に着地していく。


「チッ」

ダラスは舌打ちすると、町の中を抜けていく。

もう引退してもいい老体であるが、死ぬまで戦いたかった。若い戦士に比べて、体力も落ちていたが、まだ隊のみんなは、隊長として慕ってくれていた。

「こんな…訳がわからんままで、すませるか!」

町のメインストリートを駆け抜ける。

広大な砂漠の入口に降り立った黒竜は、首をもたげ、目の前に立つ少年に、まるで頭を下げているように見えた。

「あの黒竜が…」

町を出たダラスは最初、黒竜の体が発する熱気が見せる…幻かと思った。

黒竜は、町から一キロは離れた場所にいた為、少年の表情はわからない。

ダラスは、ドラゴンキラーを確かめると、一目散に走りだした。

「あの少年は一体」

ダラスは、もう少年しか見ていない。

足場の悪い砂道も、ダラスには慣れたものだ。少年に近づいてくる。

ダラスの足音に気付いたのか…少年は、ちらっとダラスを見た。

ダラスの目に、虚ろな少年の目が映る。

「アジアンか」

少年は、すぐに黒竜の方に体を向けた。

そして、

少年は、右手を上げた。太陽の刺すような日差しに、三本の鉤爪が輝いた。

「な」

ダラスの目の前で、丸太十本分くらいの太さがある黒竜の首が…切断された。

少年は、さらに黒竜の角を切り取ると、角の先に右手の鉤爪を刺し込んだ。

すると、角が3つに裂け―――もとの爪と同化した。

少年は、手首を動かし、感覚を確かめると、

首がなくなり、マグマのような血を吹き出す切り口に、右手を差し込んだ。

二百メートルくらいある巨体が、波打ち…やがて、あれ程黒光りしていた体の輝きが消えていく。

ダラスが、少年の近くに来た時は、まるで覚めた石のようになっていた。

「まずは…これでいい」

少年は、にやりと笑うと、黒竜から離れ、再び町へ向けて歩きだした。


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