天空のエトランゼ{Spear Of Thunder}
男は剣を下げたまま、アルテミアの顔を見た。

(こんなに大きくなって…目もとは、先輩に似てるか…)

アルテミアは、ライトニングの切っ先を水平にし、男に向けた。

「お前も、お母様の仇だ」

アルテミアは、突きの体勢のまま、男に突進する。

「俺が、先輩の仇……?」

男はフッと笑うと、目をつぶった。

「冗談ではない!」

かっと目を見開くと、男は剣を持ってない左手の指を、パチンと鳴らした。

すると、突進するアルテミアと男の間の地面から、ブーメランが飛び出してきた。

思わず仰け反ったアルテミアの勢いは、なくなった。

「注意力が散漫過ぎる…。俺の手に、ブーメランがないことになぜ、気付かない」

アルテミアは悔しさから、歯を食い縛りながら、ブーメランの軌道を確認した。

ブーメランは、空高く舞い上がると、そのまま弧を描きながら、アルテミアをまた襲う軌道に入った。

アルテミアは、上に向かって、ライトニングソードを掲げた。

切り落とすつもりだった。

しかし...

ブーメランはいきなり、分離し―それも、十個くらいに―それぞれ別の軌道を描きながら、襲い掛かってくる。

「何だと!」

驚いたアルテミアの腹に、男の蹴りが叩き込まれた。

吹き飛ぶアルテミア。

ブーメランは、アルテミアを襲うことなく、男の左手に納まった。

「言ったはずだ。注意力が散漫だと」

男は冷静だった。

「馬鹿な…」

アルテミアは困惑していた。

明らかに、レベルはアルテミアの方が上だ。本当なら、楽勝の相手なのに…アルテミアは、翻弄されていた。

「こんな戦い方…。本当に、先輩の娘なのか」

剣を構え、歩き出した男の手には、またブーメランがなかった。

「お前に教えてやろう。レベルの差が、決定的な力の差でないことを」

ゆっくりと近づいてくる男に、アルテミアは畏怖に似たものを感じ始めていた。







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