天空のエトランゼ{Spear Of Thunder}
(あの頃は…自分の中に、起きていた変化に、気付かなかった)

水がなくなった池の真ん中で、魔神の死体を見つめながら、僕は物思いにふけってしまった。

「兄貴!他をあたりましょうメロ」

フレアの横で、メロメロは僕に向かって、叫んだ。

「そうだね」

僕は、二人に向かって歩きだした。

メロメロに、フレア。

この世界に来て、僕にできた新しい仲間。

勿論、人間ではない。

(それは…僕もか)

僕は、自分の手のひらを見つめた。

この大陸では、僕は人間として認識されていない。

のちに知ることになる…魔獣因子。

僕の体にある…その因子が、僕を変えていた。

昼間は何とか、耐えられるけど…夜は、バンパイアとしての能力が目覚めていた。

ティアナの指輪によって、魔力は押さえられているが…それでも、人の数倍の身体能力を発揮できた。

この大陸に来た時の暴れぶりが、うわさを呼び…僕は、人々から恐れられていた。

「兄貴!」

メロメロは、笑顔を向けた。

恐れられているのには、もう一つ理由があった。

僕は、ため息をついた。

ニコニコと愛想よく笑うメロメロは、ポケットをあさり、何かを取り出した。

「飴舐めますか?兄貴。辛子明太子味…レアメロ」

メロメロが差し出した飴を、受け取った僕は、まじまじと飴を包んでいる包装紙を見た。

「なぜ…辛子明太子味?」

「姉さんも」

フレアには、渡すメロメロをちらっと見た僕は、何か違和感を感じ、飴とメロメロを交互に見つめた。

「兄貴。いらないんですかメロ」

飴を頬張って、口の中でコロコロと転がしながら、メロメロは首を傾げた。



僕は気付いた。

メロメロの格好だ。

迷彩色のズボンに、黒のダウン…昨日までと違う。

「メロメロ!お前…服どうした?」

僕はメロメロを指差し、問いただした。

「ああ…。ついさっき、盗んだメロ」

メロメロは当然とばかりに、胸を張って、こたえた。

「お、お前…」

「なかなか似合ってるメロ」

自慢気に、ダウンのポケットに手をいれ、ポーズを取るメロメロに、

僕は頭を抱えた。

そう…これが、問題だった。
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