天空のエトランゼ{Spear Of Thunder}
「何だ?」

松永は訝しげに、男を見た。

松永の両目が、緑色に変わった。

この世界に来て、松永が自分自身を変えた部分は、目だった。

視力が、1.5はあったけど…この世界では、悪過ぎた。相手の動きをとらえ、確実に仕留めるには、遠くまで見通せる目が、不可欠だった。

数キロまで見れる望遠機能に、相手の発する気を感知し、魔力を探ることもできた。

(レベル20…ただの人か?)

松永は少し安心すると、警戒を解いた。

「どうされました?こんなところで、お一人で…あなたのレベルでは、ここは危ない」

松永の言葉に、男は笑った。

「あなたのレベル?はははは!いやはや、これは期待外れですかな」

男は肩をすくめると、松永とキャンピングカーの周りで磔にされている人達を見、

「こんな酷いことをなさる人だから、期待したんですが」

「これは、俺じゃない」

松永は、男の雰囲気が変わったことに気付いた。

「そうでしたか…私の勘違いですね」

男は、松永を見た。

「白目?」

男は、松永が見ていなかった。

しかし、その目から一瞬、松永に向けられた気に、松永の全身に悪寒が走った。

その瞬間、

松永の意識を感じて、男の頭上から、回転する刃が男の胸から、足下を切り裂いた。

赤い血が、吹き出した。

「素晴らしい!迷いもなく、同種を切れる…その心は素晴らしい!但し…それが、恐怖にかられたものでなければ」

男は白目を向けたまま、松永に向かってくる。

「き、貴様!人間じゃないな」

松永は、無意識に一歩後退った。

「人間ですよ。その体はね」

「貴様!」

松永の呼応に応じて、無数の刃が、男の死角から切り裂いていく。

「無駄ですよ」

血が噴き出し、左手が取れそうになっても、男は松永に近づいていく。

じりじりと後退していた松永の背中が、キャンピングカーのドアにぶつかった時、

男は、にやっと歯を見せて、笑った。

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