天空のエトランゼ{Spear Of Thunder}
物憂げな翼
「これは?」

灰の中から、出てきたブラックカードを拾ったリンネの後ろに、殺気が走った。

ゆっくりと、余裕をもって振り返ったリンネの目に、同じくブラックカードを持った神流が映った。

「あんたが、新しい安定者になるの?」

皮肉を込めて、微笑みながら言う神流に、リンネはフンと鼻を鳴らした。

「安定者?あたしが?バカじゃない。どうして、地位を下げなきゃいけない」

リンネは、生意気な態度の神流に軽くキレた。

高熱で赤くなっているリンネの体を、神流は上から下まで、品定めするかのように見て、楽しそうに体を少しくねらせた。

リンネは、人差し指を突き出した。

そこから飛び出た火の玉が、神流を直撃した。

紺のブレザーの学生服を着ていた神流の体が、燃え上がった。

「キャ!」

って軽い悲鳴を上げた神流に、リンネは舌打ちした。

「貴様!下手な芝居はよせ」

リンネは、手を下ろした。

馬鹿らしくなったのか、リンネはため息をつくと、全身の熱が冷めていく。

「ばれたか」

全裸になった体を両手で隠し、俯きながらも、舌をペロッと出すと…神流は顔を上げ、リンネを見た。

その目はギラつき、獲物を見るように、リンネを睨み付けている。

服はすべて燃え尽き、灰になったが…そこから現れたのは、人の裸ではなかった。

甲殻類を思わせるザラザラした肌は、全身が鎧に包まれているように見えるが、すべてが地肌だった。

それに、右手は完全に人の手ではなく、カマキリの斧のように、爪が長く伸びていた。

神流は、その長い爪を付け根から先まで、舌で舐めた。

先程まで、何匹もの魔物を切り裂いた爪は、生臭い血の味がした。

ずっと舐めていたい衝動にかられたが…その為には、新しい血が必要だ。

神流はリンネに向けて、5本の指を広げ、その隙間から、リンネを見つけた。

「無駄だ」

リンネの髪の毛が逆立ち、数万の蛇のようになる。

その瞬間、神流の全身が固まった。

「動けない…何をした!」

襲いかかろうとした神流は、体の自由を奪われ、苛立ちから、わめき散らした。

「てめえ!!てめえ!てめえ!」

あまりの怒りからか…神流の指が、少しづつ動いていく。
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