天空のエトランゼ{Spear Of Thunder}
ライはただ、階段の上からレイラを見下ろすだけで、降りては来ない。

レイラは視線を外すように、頭を下げると、再び階段を上りだした。

階段を登りきり、無言で通り過ぎようとしたレイラに、ライは顔を向けずにきいた。

「アルテミアを、逃がしたらしいな…」

ライの言葉に、レイラは足を止めた。

「なぜ…止めをささなかった?」

レイラは、何も答えない。

「…アルテミアは見つけ次第、殺せと命じたはずだが…」

「お言葉ですが…王よ」

ライの前に、バイラとサラ、ギラが跪く。

「レイラ様は、逃がした訳では…」

「貴様らには、きいておらぬ」

静かな口調ではあるが、その迫力に、バイラ達の全身が震えだす。恐怖に包まれたが、三人はライの前から動かない。

「貴様ら…」

「今日は、挨拶代わりです。噂のバンパイアキラーが、どれほどのものかと…」

レイラは振り返り、ライの方に体を向けた。

きりっとした瞳が、ライの背中を射ぬく。

「今度は、倒してご覧に見せます」

そう言うと、深々と数秒頭を下げると………

背中を向け、歩き出す。

「待て!」

ライの怒声に、レイラは足を止め、

「わたしは…」

レイラは一度言葉を切り、唇を噛み締めると、

「ティアナではございません」

絞り出すように、言葉を出し、振り返ることなく、再び歩き出した。

もう止まることもなく…。



その後ろ姿を見送るライに、バイラは決して、口には出さない疑問を投げ掛けていた。

(王よ…。なぜ、ティアナの様の記憶をお与えにならなかった?)

(それは、アルテミア様と戦わせる為なのか…。実の親子を戦わせる…)

バイラは、少しだけ…顔を上げた。

(あなたは…本当は、お二人を…)


「余計な詮索はするな」

頭上から響くライの声に、バイラは再び、頭を深く下げた。


「消えろ」

ライの一言に、バイラ達ははっと返事すると、その場から消えた。

「我は王…」

ライはそう呟くと、暗い階段の闇の中に同化していった。

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