天空のエトランゼ{Spear Of Thunder}
懸念
「うぎゃぎゃああ!」

断末魔の叫びを上げる…もと人だった者に、

「死ねえええ!」

次元刀を突き刺し、ねじ込む神野真也。

蝉のような顔をした化け物は、両手を切断され、

額の真ん中を次元刀で刺され…もう虫の息だ。

神野の右腕が赤く、数倍に膨れ上がり、次元刀に力を込める。


神野の腕は、恋人だった沙知絵の腕を移植されていた。

人でなくなる前に、沙知絵は神野を化け物と戦えるように、自らの腕を取り付け、

化け物と戦う武器である…次元刀を抜けるようにしたのだ。



(だけど…)

その戦いを見ていた沢村明菜は、顔を背けた。


化け物と戦う神野の姿は、自ら進んで、戦いを楽しんでいるように見えた。

もう心も体も、化け物になったはずの沙知絵を見つけだし、神野は次元刀で斬ることが、目的であった…はずだ。

だけど、戦いを重ねるたびに、彼はその目的から外れていっているように、

明菜には感じられた。



戦いに取り憑かれている。


しかし…その思いは、当の本人の方が感じていた。


もう息をしなくなった化け物を、馬乗りになり…何度も突いた後、

神野は次元刀を抜き、立ち上がった。

その瞬間、少しふらついたが、何とか歩きだす。

汗が、額に流れ…鼓動が激しくなる。


「沢村さん…」

ずっと顔を背けていた明菜は、神野の呼ぶ声に、顔を向けた。

汗だくの神野が、少し無理して笑っていた。

「神野さん…」

明菜は、そんな神野に変な陰を感じた。


神野は、次元刀を明菜の腹に差し込む。

鞘に戻るように、次元刀は明菜の体の中に納まった。

「フゥ………」

長いため息をついた後、神野は、自らの右肩を押さえ、

「侵食は…肉体より早く…精神に及んで来ている…」

神野は、顔を伏せ…明菜に見えないように、唇を噛み締めた。
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