天空のエトランゼ{Spear Of Thunder}
「多分…もう保たない…」

神野はいずれ…精神も崩壊することを、確信していた。

化け物と化した人間を斬る度に、自分の人の部分もなくなっていくように感じていた。

「は、早く…沙知絵を見つけないと…」

神野は、緊張を解き…右腕の興奮を鎮めようとした…刹那、

右腕は逆に膨れ上がり、はち切れそうなほどの血管を浮き彫りにした。

「うおおおっ!」

状況を確認するより速く、

神野は再び明菜から、次元刀を抜刀すると、

後ろに向け、横凪ぎに刀を振るった。

回転する剣と、神野の体。

切り裂いたはずの次元刀は…女の体をまるで水を切ったように、大した感覚もなく、擦り抜けた。

胸から下を斬り裂いたはずが…。


「いきなり…斬り付けるなんて…野蛮ね」

次元刀に斬られた女は、神野にウィンクした。


(次元刀が…通じない?)

心の中で、ショックを受けながらも、神野は女から離れ、

後ろにいる明菜を守る。 

神野の全身に、緊張が走る。


明菜は、神野の肩ごしに見える女に見覚えがあった。

「あ、あなたは…」

明菜の体にも、緊張が走る。無意識に、足が小刻みに震えていた。

だけど、目だけは精一杯の虚勢を張る。


それが、わかったのか…女は含み笑いをもらし、

「お久しぶりね。沢村明菜」

女は神野を通り越して、明菜を見た。

「春奈さん…………いえ」

明菜は、女を睨み、

「リンネ…」



「リンネ…?」

明菜の震えるような口調に、神野はまじまじと目の前に立つ女を、眺めた。

切れ長の人に、薄い唇。

純和風美人に見えるリンネは、その身から漂う…異様な気を察することができない者には、華奢な人間にしか見えなかった。


「何の用なの!」

明菜は怯むことなく、リンネを見据えた。

リンネは強がる明菜に、クスッと笑うと、

「警戒しなくても…今は、あなた達の敵ではないわ」

と言い、二人にまたウィンクした。
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