夜叉の恋
今夜の宿は探せば幾らでもあった。
中でも、歩けば必ずあちらこちらに点在している寺や神社は打って付けの場所で、これからも特に宿探しで困ることはないだろうと静は結論付ける。
人間とは兎角寺や神社が好きらしい。
確かこれらの建物には坊主やら何やらがいたはずだが――……気にするまでのことでもないだろう。
一晩拝借するなど造作もない。
そんな考えでいる静など露知らず、寧々は暢気に鼻歌なんぞを歌っている。
一見すれば穏やかにも見える光景。
しかし、違和感。
静は徐に黄昏に染まる辺りをぐるりと見渡した。
風の音、草木がざわめく音、虫の声。
普段と変わらぬその音に混じり漂う気配――。
足りない。
そして、多い。
ないのだ。
寺や神社の中にあるはずの気配がなく、そして代わりにあるものは――……血と、そして死の臭い。
更には潜めているつもりなのだろうが、それが最早“無”という違和感を生んでいる妖の気配。
それも複数だ。
当然、寧々は気付いていない。
さて、どうしたものか……。
「……寧々。死体は平気か?」
「えっ?」
唐突に訊ねられた物騒な内容に驚きつつも、寧々は「えっと……ある程度なら」と強気な返事。
「本当だな」
「うん」
このご時世に死体を目にする機会など数え切れない程ある。
それに寧々の父は目の前で殺されている。
平気と言っては嘘になるが、“慣れて”はいる。
寧々だって人里で生きてきた娘だ。
寧々の返事に静はよし、とでも言うように小さく頷くと目前にある寺へと足を進めた。
「静さん……?」
「大丈夫だ、そんなに多くはない」
「え? えっ? 多いって……!?」
先程の質問に加え、今の言葉。
しかも当の本人はいつもと変わらぬ涼しい顔をしているのが更に寧々の不安を煽る。
静の言動に寧々は不安気に、しかし素直に付いて行く。
そして寺の境内へと足を踏み入れると、寧々はごくりと固唾を呑んだ。