夜叉の恋
狙われたのは四方の神職の人間。
食い荒らされた彼等の臓腑。
そして、それらをやって退けたのは妖。
ーーならば、答えは一つ。
足早に廊下を渡りながら静は辿り着いた答えに舌打ちをした。
それに呼応するように濃くなる“霧”。
勢い良く襖を開け放てば、部屋の隅で丸くなっているはずの姿はそこにはなく。
代わりに残された微かな気配に眉を顰めた。
予想はしていた。
だが、こんなに早くとは。
恐らく寧々の意識はない。
気が付けば黄泉。
幼くして苦労をしてきて、きっとこれからも苦労をすることは免れないであろう娘。
人の世でも、妖の世でも。
そんな哀れな娘なのだから無理に生き長らえることだけが幸せとは思わない。
思わないが。
それでも、きっと。
あの娘は願うのだろう。
毒に侵されながらも生きようとする小さな鼓動は、今も耳に焼き付いている。
所詮は少しばかりの情で拾った娘だ。
死のうが生きようが、それは娘自身の定めであり静の知るところではない。
……しかし、今はまだ……失くすには少しばかり惜しい。
ーー何より。
あの女の頼みを……まだ、聞いていないのだから。
『妖様』
つまらぬ約束をしたものだと、己を自嘲した。