ノラ猫
 
「ねえ、智紀……」


一方的な会話が続いて、静かな時間が流れ続ける。


「約束……守ってよ」


大丈夫、って言ったじゃん。

一緒に幸せになってくれるって……約束したでしょ。


こんなんじゃ、あたしは幸せになんかなれない。





(なあ、風邪ひくよ)


大雨の日、あたしを拾ってくれた智紀。
逃げ出しても、冷たくあしらっても、彼はあたしを逃がさなかった。



(すげぇ可愛い)


人を猫扱いして、
だけど大事な子だと言ってくれた。



(凛、帰ろう)


いつもあたしに、帰る場所を与えてくれる。
温かいココアを入れてくれる。



(俺はそんな凛が好きだよ)


こんな汚れたあたしを、綺麗だと言って、愛してくれた。
 
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