ノラ猫
綾香の言っていることは、あながち間違ってはいない。
もう二度と来ることはないとは言い切らないけど、昔のように綾香を一番に思って顔を出すことは出来ないから……。
さすがに何も言わずに、ぱったりと顔を出さないわけにはいかないと思ったので、今日は何か理由をつけて綾香に一言断ろうと思っていた。
「智紀、なんか変わったね」
「え?」
突然の言葉に、目を丸くさせる。
綾香はくすっと笑って、俺の顔をじっと見つめた。
「瞳に光がある」
予想だにしなかった言葉。
瞳に光があるって……
凛じゃないんだから……。
「智紀、気づいてた?
今までここに入院している間、いつも笑っているように見えて、実は本心から笑っているんじゃなかったの。
心ここにあらずというか……いつも腑に落ちない顔して……」
「……そう、なのか……」
「うん。だけど今日は全然違う。
初めて、ちゃんとした智紀の顔を見た気分」
全く気付かなかった事実。
瞳の光を失っていたのは
俺も同じだったということなのか……。
「あの子のおかげ、でしょ?」
そう言って、綾香は窓辺へと目を向けた。